夢見るコアラの日常

日本の政治と経済について勉強中。色々考察していく

改めて「8割おじさん」の感染者シミュレーションを考えてみる。

今のままだと4月に再宣言??

www3.nhk.or.jp

昨日のニュース。昨年春、「8割おじさん」という愛称で一躍有名人となった京都大学/西浦教授によるシミュレーション結果に関する記事が投稿された。緊急事態宣言解除の目安である東京都の感染者数500人を達成できたとしても、そのまま宣言を解除すると再び感染者数が爆発し、4月には再宣言を発令しなくてはならないという物。非常に緊張感の走る内容ではあるが、今日はこの西浦教授の提言内容について色々と考えていきたいと思う。

最初に話しておくが、私はどのような専門家も尊敬しているし、こういったシミュレーション結果は非常に価値あるものになると信じている。だからこそ、専門家の意見だからと鵜呑みにはせず、きちんと考察しなければならない。

「実効再生産数」を用いた感染者シミュレーション

初めに、昨年春の緊急事態宣言における「人との接触機会8割減」についておさらいしたいと思う。

www.nikkei.com

 西浦教授の専門は感染症数理モデルだ。彼は昨年春に政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議に参画すると、真っ先に感染者数がどういった形で推移していくかのシミュレーション結果を示し、「人との接触を8割減らす」という目標を提言した。緊急事態宣言発令時に安倍総理が会見でこの8割という数値を語り、緊急事態宣言中は人との接触機会がどれだけ減っているかという数値が評価された。

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このシミュレーションで使用しているのが、今ではお馴染みとなった「実効再生産数」である。実効再生産数とは簡単に言うと1人辺りの感染者が何人に感染させるかを示す数値であり、感染者数は実効再生産数を基に指数関数的に推移していく。実効再生産数が1を越えれば感染者の数は増えていくが、実効再生産数が1を下回れば感染者数は減少していくこととなる。

西浦教授がこのグラフを打ち出した時、東京都の実効再生産数は約2.5であった。従って人との接触を4割減らしただけでは感染者数は減らず、短時間で感染者数を減らすためには人との接触機会を8割減らさないといけない、という結論に至った。

実際、人との接触機会8割減は守られたとは言えないが、この目標の影響力は大きく、人々はできる限り他の人と会う機会を減らし始めた。それがあって5月末には東京都の感染者数を落とし込むことに成功したのだと思う。

「春に再宣言の恐れ」の根拠

では今回のシミュレーション結果に移る。

今回も前回と同様、現在の感染者数を起点にいくつかの実効再生産数を置いて感染者数の推移を示している。具体的には下記の通り

・緊急事態宣言中に現在の飲食店中心の対応だと実効再生産数は0.88

・前回と同じ緊急事態宣言内容であれば実効再生産数は0.715

・緊急事態宣言解除される後の実効再生産数は1.1(昨年12月と同等くらい)

 

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上記の結果、今の飲食店中心の対応だけでは目標である感染者数500人以下を実現するのは2月下旬となり、さらにそこから感染者数が増えていくためまた4月には元の水準に戻ってしまう。なので、西浦教授は「昨年の緊急事態宣言と同じ制限内容とすべき」と主張している

 

しかし、自分にはどうしてもこのシミュレーション内容に納得のいかない点が2つある。 

① 実効再生産数の根拠が不明

一つ目は上述した0.88、0.715の根拠だ。様々な記事を拝読したが、何れもこれらの数値がどこから導出された物なのかが分からなかった。なぜ飲食店の時短営業だけで0.8までしか下がらないのに、4月と同じ制限内容とすると0.65まで下がるのか、この納得のいく説明がなされていない。

仮に4月の緊急事態宣言時のデータを基に算出していると仮定しても、今と昨年春とでは状況が大きく異なる。一番の違いはマスクの着用率で、昨年春はマスク不足によりマスクを着けず出歩く人が多かったことから、「感染者が〇人に会う = 〇人に感染させる」という構図は概ね正しかったと言える。しかし現在マスクも供給も滞りなく、出歩く人の殆どがマスクを着用している。マスクが完璧に感染を防ぐ訳ではないにしろ、人と接触するだけでは感染を拡げない状況ができている。従って、自然とマスクを外さないといけない飲食店以外の規制を強めた所で、実効再生産数が大きく減るのかが疑わしい。

西浦教授は数理モデルの専門家であるので、こういう状況下でどれくらいの人が出歩き、どれくらいの人が飲食店で飲食をするかといった行動モデルの見積りは難しいはずだ。どうやってこの数値に辿り着いたか、お尋ねできる機会があれば伺ってみたい。

② 解除後の実効再生産数が元通り

2つ目は緊急事態宣言解除後の実効再生産数を12月中旬と同じ1.1に設定していることである。そもそも実効再生産数1.1は感染を抑えることができない数値で、西浦教授は3月以降も引き続き感染者が自然と増えていくモデルを仮定している。

上述した通り、西浦教授は昨年の緊急事態宣言と同じ制限で感染者数を落としきるべきであると主張している。しかし、実効再生産数1.1だと、また7月に感染爆発が起きる。緊急事態宣言中の行動ではなく、緊急事態宣言後の行動の方がはるかに問題だ。

宣言解除後に徐々にすべて元通りではなく、徐々に経済活動を戻し、実効再生産数を継続して1未満としていくような仕組みが最重要課題である言え、政府も当然理解しているはずだ。そういった観点からも、宣言解除後に1を超える実効再生産数はパラメータとして厳しすぎると言わざるを得ない。また、ワクチン接種の開始や気温の上昇などを考えても、3月以降も実効再生産数1.1という状況は現実的ではないと思っている。

専門家の提言を鵜呑みにしてはいけない

昨日、テレビ朝日のモーニングショーでノーベル賞受賞者4人による感染防止対策の提言が行われていた。日ごろから政府のやることに信用できない人達は、日本を代表する知性者たちの提言に大いに沸いたことだろう。

しかし、専門家というのは何かに特化した人物を指す。こういった社会問題を取り扱う際、専門家の提言をそのまま鵜呑みにすることは極めて危険だ。

私はノーベル賞受賞者も、西浦教授のような研究者も、心から尊敬している。だからこそ、彼らの提言を形にするために、ありとあらゆる観点から検討し議論することが必要だ。今の日本のマスコミにはその姿勢が足りていないし、野党も「専門家の意見」をろくに検討もせずすぐ政治利用する。騙されないためにも、まずは自分の頭で考える癖をつけたいところだ。